視線
「佐倉は、これだろ」
竹田がにやにやしながら見せてきたのは、ジンギスカン味と書かれたキャラメルだった。
「さっきバクバク食ってたもんな」
「いや、ジンギスカンは美味しかったけど、キャラメルにする必要ある?てかいらないし」
修学旅行2日目の夜、ホテルの土産売場は、同じ中学の生徒で一杯になっている。
親や兄弟、部活の後輩の顔を思い浮かべながら、皆思い思いに商品を手に取る。
「竹田は、なにか買っていかないの」
「妹にマリモ頼まれてたから、それだけ買う。佐倉は?」
「かなみに買ってく。旅行来られなかったから」
この旅行の班決めで、竹田と同じ班になると決まった時、私は口角が上がってしまいそうになるのを必死にこらえた。
かなみが、良かったね、と小声で囁くから、赤くなりかけていた耳がさらに熱を帯びる。
今日は一緒にオルゴールを作る予定だったのに、かなみは熱を出してこの旅行を欠席してしまった。
「あー、あいつ残念だったよな。連絡取った?」
「うん。もう熱も下がって、家で退屈してるみたい。今何してるか実況しろってうるさい」
「しょうがねぇな、俺も今井に、これ買ってやるよ」
竹田がさっきのジンギスカンキャラメルを、カタカタ振る。
「だからそれ絶対美味しくないって」
「あーでも今井はこっちかな。これ、夕張メロン」
私は、自分の顔が一瞬こわばるのを感じた。
「なんで?」
「だってあいつ、メロン味好きじゃん。いつも昼休みメロンジュース飲んでるし」
「そうだけど」
そうだけどなんで、と頭の中で繰り返す。
なんで竹田は、かなみが好きなジュースを知ってるの。
「…わたしがまとめて買ってくる」
竹田の手からキャラメルの箱を取ってレジに並ぶ。
ポケットのスマホが鳴った。
告白どうだった?と、かなみからメッセージが届いていた。