こども



ランドセル似合わないねって、褒め言葉だ。


わたしは、背の順で並ぶときはいつも一番後ろだし、顔も大人っぽいから中学生によく間違えられる。

だから、電車やバスに乗るときはいつも保険証を持ち歩く。

こういう困ったこともたまに起きるけど、実際大人にみられるって、気持ちいい。

社会科見学で工場に行ったとき、一人だけ大人用の白衣とマスクが渡されたときは、なんか大人と対等に扱われた気がして、嬉しかった。



さきちゃんちにはたくさんゲームがあるから、みんなが集まる場所になることが多い。コントローラーは4機までしか使えないから、かわりばんこで遊ぶ。

ゲームの中で自分が使うキャラクターを選ぶときは、わたしはいつも最後に選ぶ。

だって、何を選んでも性能は同じなんだから、なんでもいいじゃない。

そんなわたしを見てさきちゃんママはいつも「理子は大人だね。」って言ってくれる。

でも、大人ってそういうことなのだろうかと、最近考える。



「ねえ、理子縄回してよ。」

杏は女子のグループで1番上の人だから、誰も逆らえない。

わたしは別にそんなに嫌でもなかったし、やってあげた。

穏やかな学校生活をおくるためなら、こんなのどうってことない。

それに、どうせ私は受験で違う中学だ。もうすぐ会わなくなる相手だと思えば、大抵のことは我慢できる。

こういう考えって、大人っぽい。


あ、なんか、大人っぽいって自分で思うの、こどもっぽい。


 *


相澤くんは、地元のサッカー少年団に入っている男の子だった。

そういう子とわたしは普段ほとんど話すことがなかったから、体育の授業帰りに下駄箱で話しかけられて、正直すごくびっくりした。

「お前の指、長えな。」

「え、ああ、そうかな。」

「貸してみ。」

相澤くんがわたしの手をとる。

初めて男の子と手をあわせた2秒間

静電気が、こんなの大人の世界ではどうってことないよって、ちっちゃくばちっとした。

「あ、やっぱ俺のが短い。」

相澤くんは負けたーと笑って、先に教室に戻ってしまった。

 

あの日、他の子より大きいこの手が

今だけ熱を帯びたこの手だけが

どうしようもなくこどもだった。